4人の沖永良部島の人たちに、じぶんの方言で短いお話をしていただいた動画を集めました。動画には原語と逐語訳の字幕がついています。日本語意訳と、逐語訳つき沖永良部語のテキストでもお話を紹介します。
おはなし1
「18歳のシュークリーム」
沖 良子さん
1970年に島の高校を卒業して、進学・就職のために名古屋に行き、はじめてシュークリームを食べたときのおはなしです。
おはなしを日本語意訳で
18歳のとき、沖永良部高校を卒業して、本土に行ったの。それでね、友だちと一緒にシュークリームを買って食べたのよ。そのときはね、たぶん50円くらいだったと思う。
それで、もう、そのクリームがおいしくて、どうしてこんなクリームがあるんだろうって思って、「これ何ていう食べ物?」って聞いたら、友だちが「シュークリームよ」って。
もう、とってもおいしくて、今でもシュークリームを食べるたびに、18歳のときのことを思い出すのよ。
おしまいです。
おはなしを逐語訳つき沖永良部語で
じゅーはちぬ とぅきー
18歳の とき
おきこー そつぎょー しー
沖永良部高校 卒業 して
たびち いじてぃ
旅に 出て
がんし… あぬー…
そして あの
あぐとぅ あぐし
友だちと 一緒に
シュークリーム ほーてぃ かだんぎ。
シュークリーム 買って 食べたのよ
うぬ とぅきわよ
その ときはね
たぶん ごじゅーえんべーどぅ
たぶん 50円くらいぞ
あたんでぃ ‘むーよ。
あったと 思うよ
がんし
それで
‘なー しってー うぬ クリームぬ ‘まさぬ
もう とても その クリームが おいしくて
いきゃし がーにゃぬ クリームぬ
どうして こんな クリームが
あーぬ むんかでぃ ‘むーてぃ
ある ものかと 思って
「ぬーでぃぬ なまえかー」 いちゃんきゃ
何という 名前か 言ったら
あぐぬや、
友だちがね
「うり シュークリームどやー」ち がーいち
これ シュークリームだよ」と 言って
‘なー うぬ とぅきぬ
もう その ときの
あじぬ しってー ‘まさぬ
味が とても おいしくて
シュークリーム かみゅぬ たんびに
シュークリーム 食べる たびに
じゅーはちぬ とぅきぬ くとぅ
18歳の ときの こと
‘むいださゆんどー。
思い出されるよ
‘なー がさどぅ あやぶる。
もう このくらいぞ あります
沖永良部語のこと
島の人たちが「ほーげん」と呼ぶ島のことば「沖永良部語」は「日琉語族-琉球語派-北琉球語群」に分類される琉球諸語の一つです。日本語諸方言や他の琉球諸語と同じ祖語「日琉祖語」から分岐した言語ですが、長い歴史変化を経て現在の沖永良部語の文法体系を獲得しました。
ユネスコは2009年に、沖永良部語を含むすべての琉球諸語を「いま何もしなければ」なくなってしまう「消滅危機言語」として報告しました。
しかし!近年島では「大人も子どもも一緒に、楽しく使いながら次世代に残していこう」という機運が少しずつ高まってきています。島内の草の根活動から始まり、2019年からは沖永良部島の和泊町・知名町と国立国語研究所が沖永良部語継承保存のための連携協力協定を結び、行政レベルでも言語継承の取り組みが行われています。
いろんな言語の記録・継承の取り組みの一つに、こういうのがあってもいいですよね、と思ってこの読み物を書きました。(山田真寛)
*国立国語研究所フィージビリティスタディ「フィールドデータのオープンサイエンス」の研究成果を含みます)