4人の沖永良部島の人たちに、じぶんの方言で短いお話をしていただいた動画を集めました。動画には原語と逐語訳の字幕がついています。日本語意訳と、逐語訳つき沖永良部語のテキストでもお話を紹介します。
おはなし2
「変わった人」
松村 雪枝さん
「変わった人はちゃんとわけがあって変なことをしている。」僕のペンの持ち方が変なのを見つけて、じぶんでも同じ持ち方をしてみたおはなしです。
おはなしを日本語意訳で
今から私の作文を読むよ。どうか聞いてください。
「変わった人」
山田先生は変なえんぴつの持ち方をする。子どものとき、ちゃんと教える人がいなかったんだと思っていた。
でも、そうじゃなかった。字を書くときじぶんが書いている字が見えなくて、じぶんでくふうしてそういう持ち方になったそうだ。
今私は、影ができる電気の下で字を書いているけど、私も山田先生みたいなえんぴつの持ち方をしている。変わった人はちゃんと理由があって、人が見たら変なことだと思われることをしているんだね。
山田先生のことをを天才だっていう人がたくさんいる。私も変わっていると言われているから、天才かもしれないね。
おしまい。
おはなしを逐語訳つき沖永良部語で
なまから わー さくぶん ゆみゅんどー。
今から 私の 作文 読むよ
どーか きち たぼりー。
どうか 聞いて ください
「かわたぬ ちゅー」
変わった 人
やまだ しんしぇわ
山田 先生は
かわた えんぴつぬ むちかた しゅん。
変な えんぴつの 持ち方 する
わらびぬ とぅきー
子どもの とき
ちゃんと はたゆぬ ちゅーぬ
ちゃんと おしえる 人が
うらだな あてぃどーち ‘むーとぅたん。
いなくて あったと 思っていた
がんわ なーだな あたん。
そうは なくて あった
じー はきゅぬ とぅきー
字 書く とき
じーぬ みゃーらんとぅ
字が 見えなくて
どぅーし ゆくゎぬ よい
じぶんで いい よう
ちこゆに なたむでぃさ。
使うように なったそうだ
なま わな
今 私は
はがぬ でぃきゆぬ でんきぬ しゃんてぃ
影が できる 電気の 下で
じー はちゅしが
字 書いているが
わぬむ しんしぇが くとぅし
私も 先生の ような
えんぴつぬ むちかた しゅん。
えんぴつの 持ち方 している
かわた ちゅーわ
変な 人は
ちゃーんとぅ わきぬ あてぃどぅ
ちゃんと 理由が あってぞ
ちゅーぬ みゃー かわた くとぅでぃ
人が 見たら 変な ことと
‘むーゆぬ くとぅ しゅんどー。
思う こと しているよ
やまだ しんしぇが くとぅ てんさいち
山田 先生の こと 天才と
がーゆぬ ちゅーぬ まんどぅん。
言う 人が たくさんいる
わぬむ かわた ちゅーでぃ ‘やーとぅんとぅ
私も 変な 人と 言われているから
てんさいがら わからんどー。
天才かも わからないよ
がっさ。
このくらい
沖永良部語のこと
島の人たちが「ほーげん」と呼ぶ島のことば「沖永良部語」は「日琉語族-琉球語派-北琉球語群」に分類される琉球諸語の一つです。日本語諸方言や他の琉球諸語と同じ祖語「日琉祖語」から分岐した言語ですが、長い歴史変化を経て現在の沖永良部語の文法体系を獲得しました。
ユネスコは2009年に、沖永良部語を含むすべての琉球諸語を「いま何もしなければ」なくなってしまう「消滅危機言語」として報告しました。
しかし!近年島では「大人も子どもも一緒に、楽しく使いながら次世代に残していこう」という機運が少しずつ高まってきています。島内の草の根活動から始まり、2019年からは沖永良部島の和泊町・知名町と国立国語研究所が沖永良部語継承保存のための連携協力協定を結び、行政レベルでも言語継承の取り組みが行われています。
いろんな言語の記録・継承の取り組みの一つに、こういうのがあってもいいですよね、と思ってこの読み物を書きました。(山田真寛)
*国立国語研究所フィージビリティスタディ「フィールドデータのオープンサイエンス」の研究成果を含みます)