4人の沖永良部島の人たちに、じぶんの方言で短いお話をしていただいた動画を集めました。動画には原語と逐語訳の字幕がついています。日本語意訳と、逐語訳つき沖永良部語のテキストでもお話を紹介します。
おはなし4
「わたしの言語復興」
前田 ゆり香さん
別の読み物「親の世代からの言語復興」で紹介した動画に、逐語訳つき沖永良部語テキストの全文をつけた再掲です。文字量が多いので日本語訳の方は、挿絵つきの元のページで読んでください!同じテーマでおはなししてくださった前田卓也さんの動画・読み物や、おはなしの背景の説明なんかもそっちにあります。
おはなしを日本語意訳で
私もしまのことばを残すために、じぶんにできることを考えました。子どもたちと取り組んだしまむにプロジェクトは、しまのことばの懐かしさと、美しい響き、しまのことばでしか表現できない感情があることを、思い出させてくれました。
しまのことばは、消えてもしかたのないものではない。私にもできることが必ずあるはず…
おはなしを逐語訳つき沖永良部語で
わぬむ しまむに ぬこしゅぬいぇー
私も 島ことば 残すため
わぬに しらゆぬ くとぅ かんげたん。
私に できる こと 考えた
わきゃ くゎんきゃとぅ しゃーぬ
私たちの 子どもたちと した
しまむにぬ しゅくだいわ
島ことばの 宿題は
(=「しまむにプロジェクト」)
わぬに しまむにぬ なちかしゃとぅ
私に 島ことばの 懐かしさと
きらさぬ ひびき
美しい 響き
しまむにしどぅ ‘やーゆぬ きむぬ
島ことばでぞ 言える 心が
あーむでぃぬ くとぅ みーじゃさちゃん。
あるとの こと 思い出させた
しまむにわ むか なてぃむ
島ことばは 無 なっても
しかたが なーぬ むぬわ あなん。
しかたが ない ものは ない
わぬむ しらゆぬ くとぅぬ
あーぬ はじ。
私も できる ことが ある はず
うぬ くとぅ はたてぃ くりたしわ
その こと おしえて くれたのは
やまだ せんせー でぃろ。
山田 先生 です
わぬわ しまぬ よーちえんにてぃ
はたらちゅん。
私は 島の 幼稚園で 働いている
ごさいぬ わらんきゃぬ せんせー しー
5歳の 子どもたちの 先生 して
いちむ わらんきゃとぅ まじに
いつも 子どもたちと 一緒に
わろいがちゃな しぐとぅ しゅん。
笑いながら 仕事 している
うぬ よーちえんぬ いんく わらんきゃむ
その 幼稚園の 小さな 子どもたちも
しまむに までぃ ちこてぃふしゃむでぃ
‘むーとぅん。
島ことば たくさん 使ってほしいと 思っている
がんし しまむにぬ ほん ゆだや
それで 島ことばの 本 読んだり
わきゃ くゎんきゃとぅ あぐし
私たちの 子どもたちと 一緒に
しまむにち のーちゃぬ
島ことばに 直した
『よーしゃぬ おーむし』 ゆだや
『はらぺこ あおむし』 読んだり
しまむにぬ うた ちくてぃ
島ことばの 歌 つくって
あぐし うとぅてぃ あしどぅん。
一緒に 歌って 遊んでいる
はじめ うぬ わらんきゃわ
はじめ その 子どもたちは
わがー ちこゆぬ しまむに きち
私が 使う 島ことば 聞いて
「がいこくごなー?」ち きちゅたん。
「外国語か?」と 聞いていた
わぬわ ごさいぬ わらんきゃち
私は 5歳の 子どもたちに
うりわ しまにてぃ むかしから
それは 島で 昔から
はなさとぅぬ むにーち はたてぃ
話されている ことばと おしえて
ちらや からだぬ しまむに はたたや
顔や 身体の 島ことば おしえたり
やしたーまぬ えーさち
はたたや しゅん。
簡単な あいさつ おしえたり している
よーちえんぬ わらんきゃわ
幼稚園の 子どもたちは
わがー わらびぬ とぅきよか
私が 子どもの ときより
ゆー しまむに きちゅんがね なん。
よく 島ことば 聞くように ない
うぬ わらんきゃぬ
あちゃ あまむ やしが
その 子どもたちの 父さん 母さんも だけど
じゃーじゃ あじたむ しまむに ちこらん。
じいさん ばあさんたちも 島ことば 使わない
わー クラスぬ ごさいぬ わらんきゃわ
私の クラスの 5歳の 子どもたちは
きちゃぬ くとぅ なーぬ むに
みじらしゃしー
聞いた こと ない ことば おもしろがり
うびたや ちこたや しゅん。
おぼえたり 使ったり している
わらんきゃち しまむに はたゆぬだきゆか
子どもたちに 島ことば おしえるだけより
あぐし みじらしゃしーがちゃな
あしどぅりば
一緒に おもしろがりながら あそんでいれば
わらんきゃわ しまむに はなしゃしー
子どもたちは 島ことば 愛しがり
ちこゆぬいぇー なゆんがら わからん。
使うように なるから わからない
がん ‘むーてぃ
ぬーやほーやぬ くとぅ しー
そう 思って あれこれの こと して
しまむに ちこてぃ あしばーでぃ
‘むーとぅん。
島ことば 使って 遊ぼうと 思っている
わきゃ くゎんきゃとぅ
しまむにぬ くとぅ
私たちの 子どもたちと 島ことばの こと
ぬーやほーや かんげてぃ
あしどぅたんきゃ
あれこれ 考えて 遊んでいたら
ぬーゆかむ みじらしゃしーがちゃな
何よりも おもしろがりながら
あしびゅぬ くとぅぬ でーじち
‘むーたん。
遊ぶ ことが 大事と 思った
えほんや かるた
絵本や カルタ
うたや あーしむんがてーなた
唄や クイズなど
みじらしゃぬ くとぅわ
おもしろい ことは
わらんきゃが やしたーま
子どもたちが 簡単に
しまむに なろゆぬ くとぅぬ
ふやがとぅん。
島ことば 習う ことが 増えている
がんしがら みじらしゃぬ くとぅわ
ちじきゅん。
そして おもしろい ことは 続く
わきゃ 「ひーぬむん」ぬ
しゅーぬ くとぅが
私たち 「ひーぬむん」が している ことが
がん でぃろ。
そう です
わらんきゃが みじらしゃしーがちゃな
子どもたちが おもしろがりながら
しまむに なろゆぬ くとぅぬ
島ことば 習う ことが
ふーさ なてぃ ふしゃん。
大きい なって ほしい
よーちえんぬ わらんきゃが
幼稚園の 子どもたちが
いちか やしたーま しまむに ちこたや
いつか 簡単に 島ことば 使ったり
うやほたが ちこゆぬ しまむに
年寄たちが 使う 島ことば
わかゆに なゆんきゃ ほーらしゃん。
わかるように なれば うれしい
よーちえんぬ わらんきゃが
やーち むどぅてぃ
幼稚園の 子どもたちが 家に 戻って
しまむにし えーさち しゅんきゃ
島ことばで あいさつ したら
うやほたわ うどぅるち なちかしゃぬ
年寄たちは 驚き 懐かしくて
ほーらしゃしゅん なんかや。
嬉しがる ないか
わがー くゎんきゃとぅ
しまむにぬ しゅくだい
私が 子どもたちと 島ことばの 宿題
しゅーたぬ とぅきー
していた とき
わー うやたわ わきゃ しゅくだい
私の 親たちは 私たちの 宿題
あぐし しー くりてぃ
一緒に して くれて
「まーがんきゃぬ うかぎし
孫たちの おかげで
しまむに みーじゃちゃん」ち
島ことば 思い出した」と
ほーらしゃしゅーたん。
嬉しそうにしていた
わらんきゃだき あなんく
子どもたちだけ ではなくて
うやたが しまむに なちかしゃしー、
みーじゃち
親たちが 島ことば 懐かしがり、 思い出し
‘なーちけ はなさーでぃ ‘むーゆん。
もう一度 話そうと 思っている
がにゃぬ ちゅー ちゅい あてぃむ
そんな 人 一人 あっても
がにゃぬ やー てぃーち あてぃむ
そんな 家 一つ あっても
ふやがゆぬいぇー にごとぅん。
増えるよう 願っている
しまむにぬ しゅくだい しゃーぬ
島ことばの 宿題 した
わきゃ くゎんきゃわ
私たち 子どもたちは
ちゃーま しまむに わかてぃ きちゃん。
少し 島ことば わかって きた
がんし わー うやたむ
そして 私の 親たちも
わきゃち しまむに はなしゅぬいぇー
なたん。
私たちに 島ことばで 話すよう なった
わきゃむ しまむに ちこゆぬいぇー
しゅん。
私たちも 島ことば 使うよう している
がんし ごじゅーねん たちむ
それで 50年 たっても
わらんきゃち しまむにぬ あみー
子どもたちに 島ことばの 雨
ふらち ちじきてぃ いかゆぬ しけー
降らせ 続けて いける 世界
うり い゛み みちゅん。
それ 夢 見ている
うやほた わらんきゃが
年寄たち 子どもたちが
いきゃなぬ むに ちこてぃむ
どんな ことば 使っても
どぅーぬ くとぅむ
じぶんの ことも
むんなげぬ くとぅむ でーじに
しーがちゃな
みんなの ことも 大事に しながら
はなしゅぬ くとぅむ わかてぃ
話す ことも わかって
まじに わろゆぬ しけー
一緒に 笑う 世界
わきゃわ がにゃぬ しけー
めざちゅんどー。
私たちは そんな 世界 目指しているよ
沖永良部語のこと
島の人たちが「ほーげん」と呼ぶ島のことば「沖永良部語」は「日琉語族-琉球語派-北琉球語群」に分類される琉球諸語の一つです。日本語諸方言や他の琉球諸語と同じ祖語「日琉祖語」から分岐した言語ですが、長い歴史変化を経て現在の沖永良部語の文法体系を獲得しました。
ユネスコは2009年に、沖永良部語を含むすべての琉球諸語を「いま何もしなければ」なくなってしまう「消滅危機言語」として報告しました。
しかし!近年島では「大人も子どもも一緒に、楽しく使いながら次世代に残していこう」という機運が少しずつ高まってきています。島内の草の根活動から始まり、2019年からは沖永良部島の和泊町・知名町と国立国語研究所が沖永良部語継承保存のための連携協力協定を結び、行政レベルでも言語継承の取り組みが行われています。
いろんな言語の記録・継承の取り組みの一つに、こういうのがあってもいいですよね、と思ってこの読み物を書きました。(山田真寛)
*国立国語研究所フィージビリティスタディ「フィールドデータのオープンサイエンス」の研究成果を含みます)